価格競争問題が行き着く先とは
ここ20年ほど緩やかなデフレの中にある日本。2000年代から2010年代前半にかけて、各業界では熾烈な「価格競争」が繰り広げられました。
そもそも価格競争が起きてしまう理由や、価格競争の弊害、価格競争の果てに、業界はどのような道を辿るのかについてご紹介します。
価格競争はなぜ起きるのか
価格競争は、競合する企業の商品やサービスの性能や品質の差が小さいときに起きるといわれています。言い換えれば、企業間で差別化戦略が不十分なときに価格競争が生じます。
また、市場における需要と供給のバランスが崩れた場合にも価格競争が起こることがあります。供給が需要を大きく上回ると、企業同士の競争が激しくなり、価格競争に火がついてしまうというわけです。
価格競争が引き起こす問題・デメリット
価格競争によって商品価格は下がるため、安く商品が手に入ることで消費者にとってプラスであるようにも思えます。ところが価格競争の過程で商品そのものの価値が低下してしまうため、業界そのものに悪影響を与えてしまうことがあるのです。例えば、かつて各牛丼チェーンは一杯あたり300円未満での価格を競い合い、結果的に収益が低下し、最終的には業界全体が疲弊する事態を招いてしまいました。
ファストフード業界にも同じ動きがみられました。生産能力を上げて従来の商品をより安く提供しようと努力するのではなく、より安く作るための材料や場所、人材を探すという手法に出てしまったのです。その結果、材料の仕入先である中国企業が使用期限切れ鶏肉を使うという問題に発展してしまいました。
価格競争が行き着く先は
先の見えない低価格競争には出口がないようにも思えますが、業界が疲弊した後には価値競争が生まれます。1950年代から60年代のアメリカのコーヒー業界がその好例といえるでしょう。
30年代に真空パック技術が普及したことで、家庭や職場でのコーヒーの大量消費が可能になりました。市場はしばらくの間成長しますが、やがてシェアを競って低価格競争が始まりました。生産コストを削減し、価格を下げても利益が出るよう、味の劣る別種の豆をブレンドするなどの対策がとられました。こうして際限のない価格競争が進むなか、業界の収益は著しく低下し、結果的に消費者は美味しいコーヒーを飲むことができなくなったのです。
そんな中60年代の後半に、中古の焙煎機とコロンビア産の豆を使ってコーヒーを出す店が美味しい話題となり、行列ができるほどの人気に。その店で働いていたジェリー・ボールドウィン氏が71年に開業したのがあのスターバックスでした。
美味しいコーヒーを求める動きはやがて大きな流れとなり、コーヒーを生産する土地、人材、生産処理方法、焙煎、抽出などの一連の流れにおいて、品質を徹底的に管理する「スペシャルティコーヒー」という考えが生み出されるに至りました。
これが、価格競争の果てに疲弊した業界を立て直そうと、新たな価値競争が生まれるプロセスです。
変化し始めている脱・価格競争の動き
牛丼業界にも同様の脱・価格競争への動きが生まれました。ある牛丼チェーン店は、それまで一杯300円に満たなかった牛丼の販売をとりやめ、これまでよりも100円も高い牛丼の販売を始めています。従来のような冷凍肉ではなく、チルド管理された旨味と柔らかさに優れた材料を使用し、タレも一新。プレミアム感をアピールしました。
別の牛丼チェーン店も、アルコール類やマグロの刺し身や牛すじ煮込みといったオリジナルのおつまみを提供するという新たな業態を展開。価格競争を脱し、独自の価値を生み出していく方向へと大きく舵を切りました。当時、売上が4割上昇し、業績が赤字から黒字へと転じたニュースは記憶に新しいところです。
価格競争は、業界にも消費者にも利益をもたらしません。不毛な価格競争に陥らないようにするためには、マーケティングを徹底し、価格ではなく価値の競争へとシフトしなくてはなりません。製品の差別化などの対策が早い段階で求められるといえるでしょう。